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株式会社エブリーのTech Blogです。

Delta LakeとLakehouseプラットフォームによるデータウェアハウス設計

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Delta LakeとLakehouseプラットフォームによるデータウェアハウス設計

 こんにちは。ビッグデータ処理基盤の物理レイヤーから論理レイヤーの設計実装、データエンジニアやデータサイエンティストのタスク管理全般を担当している、Data/AI部門の何でも屋マネージャの @smdmts です。

 この記事は、弊社のデータ基盤の大部分を支えるDelta LakeとLakehouseプラットフォームによるデータウェアハウス設計の紹介です。 Databricks社が主体となり開発しているDelta Lakeをご存じでしょうか?

 Delta Lakeは、Apache Sparkを利用したLakehouseプラットフォームを実装可能とするオープンソースです。 Lakehouseプラットフォームの詳細は、こちらの論文に記載されています。 Lakehouseプラットフォームとは、一つのデータレイクのプラットフォームにETL処理、BI、レポート、データサイエンス、マシンラーニングを搭載することで、性能面やコスト面・仕様変更に強いなど、多方面で有利に働くとされます。

Delta Lakeとは

 Delta Lakeは、以下の公式サイトのdelta.io の図にあるとおり、S3やGCSなどのストレージレイヤーに機械学習や目的別に特化したデータ構造のアーキテクチャパターンです。 Delta Lakeは主にApache SparkからのRead/Writeをサポートしていますが、制約つきでPresto/Athenaによる読込もできます。

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DELTA LAKE

 公式サイトで紹介されている以下の動画によると、Delta Lakeを利用した場合のデータ構造を、以下のように、Bronze、Silver、Goldと定義される三段階に構造を分離すると、より信頼性の高いデータレイクの構築可能にするとされます。

ステージ データの内容
Bronze Ingestion Tablesと呼ばれる、生ログを保存するステージ
Silver Refined Tablesと呼ばれる、Bronzeテーブルをクレンジングした中間テーブル
Gold Feature/Aggregation Data Storeと呼ばれる、目的別に特化したテーブル

Delta LakeとLakehouseプラットフォーム

 Delta Lakeに関わらずデータレイクで何らかのデータを取り扱う場合、アプリケーションのドメイン知識の考慮が必要です。 一般的なアプリケーションでは、ドメイン知識の原料となるユビギタス言語を元にデータモデルの設計がされますが、イベントソーシングを利用しない限り、ドメインモデルが出力するデータモデルの変更は可能です。 たとえば、DELISH KITCHENは、レシピ動画を視聴出来るサービスですが、「動画」と「レシピ」などのコアとなるドメインモデルがある事に対して、仕様変更などで「レシピ」に何らかの新しい付加情報となるデータモデルの変更や追加は可能です。

 一方でデータ基盤におけるドメイン知識とは、KPIやKGIなどの観測したい対象を指します。 たとえば、動画におけるデータ分析のドメイン知識では「視聴数」や「視聴維持率」などがその対象となります。

 データウェアハウスで管理されるイベントログは、基本的に過去に保存したデータモデルの変更は許されず、将来仕様変更が発生した場合でも、データ構造はKPIなどの観測したい事象に追随する必要があります。 そのため、以下のように各ステージ毎の領域別でドメイン知識の保有などの考慮が必要となります。

  • Bronzeステージ(生ログ)
    • データソースから発生するデータ構造を極力変更しないデータ領域
    • 基本的に生ログで最小限の構文解析のみ行いドメイン知識を有さない
  • Silverステージ(クレンジング/一次集計テーブル)
    • データ構造の仕様変更などに追随するバッファーとなるデータ領域
    • BronzeステージとSilverステージのデータを集計対象とする
    • 生ログからイベント毎に分割するなど最小のドメイン知識を有する
  • Goldステージ(最終集計テーブル)
    • ビジネス上の価値が観測できる多くのドメイン知識を有するデータ領域
    • SparkやPrestoなどから読み込まれる
    • BIツールやMLなどから利用し、エンドユーザーの知識や知恵となり得る

 このように各ステージ毎にデータが持つ役割を明確にすると、観測対象となるドメイン知識の全てがGoldステージに集約されます。 また、ドメイン知識の原料となるデータとして、SilverステージとBronzeステージにデータが保存されると明文化されます。

 Bronzeステージには生ログが保存され、Silverステージにはイベント毎などで分割された最小限の粒度となるドメイン知識を有するデータが保存されます。 データが保持する情報の抽象度はBronze、Silver、Goldの順番に上がり、最終的にビジネスに何らかの役に立つドメイン知識となる情報がGoldステージで参照可能となります。

 Lakehouseプラットフォームのアーキテクチャは以下の図の通り、データレイクに対して一つのエンドポイントでさまざまなデータを参照可能とする仕組みです。 データレイク内のデータをドメイン知識の保有の有無など抽象度の異なるデータをBronze、Silver、Goldと分離すると、データガバナンスに良い影響をもたらす事が期待できます。

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Lakehouseアーキテクチャ

Delta Lakeと関心の分離

 ビッグデータの処理基盤は入力元となるデータ源泉は多種多様でカオスになりがちですが、Lakehouseプラットフォーム内のデータ構造をBronze、Silver、Goldの各ステージでデータを蒸留すると、関心の分離が促進されます。 関心の分離はSoC(Separation of Concerns)とも呼ばれ、オブジェクト指向設計やモジュール設計で重要とされる「凝集度」や「結合度」の観点から重要な概念です。

Delta Lake内の各データ領域を利用者別に分類すると、以下のように分離できます。

  • Bronzeステージ(生ログ)

    • データ入力部分を処理担当するインフラエンジニア
    • SaaSによる外部入力データ連係を担当するデータエンジニア
  • Silverステージ(クレンジング/一次集計テーブル)

    • ドメインモデルを構築するデータエンジニア
    • 自分が担当したアプリ成果を確認するアプリケーションエンジニア
    • 探索的データ分析を行うデータサイエンティスト
    • 目的となるKPIの検討を行うプロダクトマネージャ
  • Goldステージ(最終集計テーブル)

    • 機械学習のモデル精度をチューニングするデータサイエンティストや機械学習エンジニア
    • 対顧客や経営層へのレポーティングを行うデータアナリスト
    • 日々のKPIを観測する事業責任者や経営者、プロダクトマネージャ

 データ領域における関心の分離は、各ステージのデータ設計や最終的な可視化対象の選定に当たる洞察に良い影響を与えます。 たとえば、アプリケーション開発者が開発した機能の状況を把握するためにはSilverステージを参照すれば、機能が正常に動作しているかを把握できます。 また、達成されるべきKGIに因果関係があるKPIがはっきりしない場合は、Silverステージのデータから探索的データ分析によりKPIの検討が可能です。

 データが保持する抽象度がBronze、Silver、Goldと順番に上がることの裏返すと、Gold、Silver、Bronzeの順番にデータ量が増え探索可能となる情報が増えるということです。 一度集計してしまうと集計前のデータが欠落してしまうことから、新たな洞察を得たい時にはSilverステージより前のデータを利用したい場合もあります。 Goldステージのデータは特定の目的以外のデータは保持しないことからデータの持つ柔軟性は低いです。 観測したいKPIが未知の場合は、前ステージのSilverステージやBronzeステージのデータを集計し、Goldステージに昇格させるべきか検討する必要があります。

 実際のアプリケーション運営の現場ではLTVなどのKGIに因果関係があるKPIを試行錯誤して発見に至るケースも多く、しばらくの間はBIツールからはSilverステージのテーブルをスキャンする事も珍しくありません。 一方でSilverステージはGoldステージと比較してデータ量が多くなることから、計算量や処理コストの観点では不利に働きます。 そのためSilverステージのスキャンで観測したいKPI決まると、Goldステージのデータを作成するバッチを作成し、BIツールからはGoldステージのテーブルを参照するようになります。

 このように、データが保持する主な情報を各ステージ毎に分離すると、データ軸でも利用者毎の関心の分離が促されます。 「システムを設計する組織は、その構造をそっくりまねた設計を生み出してしまう」とコンウェイの法則の有名な一説がありますが、データ構造とその配置を定義するだけで、利用者毎の関心が綺麗に分離するのは興味深い事例ではないでしょうか。

Delta Lakeがデータレイクにもたらす恩恵

 今回はDelta Lakeの機能詳細に触れませんでしたが、Delta LakeにはUpsertを可能とするMerge文、過去に保存した時点のデータに巻き戻すTime Travelなど様々な便利な機能が実装されており、Bronze、Silver、GoldのステージのETL処理を強力にサポートします。 たとえば、Bronzeステージは生ログのためアプリケーションの実装の都合で頻繁にカラム追加などのデータ構造が変更されますが、自動的にスキーマの変更を検出してマージするスキーマオートマージ機能は非常に便利です。

 私が所属するデータ/AI部門のデータ基盤では、一部の機能をDelta Lakeを利用したLakehouseプラットフォームで実装していますが、仕様変更が頻繁に発生するデータ領域でもアジリティ高く即日〜三営業日程度で観測したいKPIを追加できる状況が実現できています。

 データ構造をBronze、Silver、Goldとステージを分解するだけでも、データ利用者の関心の分離を促し、データガバナンスにも数多くの恩恵をもたらすため、データウェアハウス設計の参考にして頂ければ幸いです。

 ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

データ分析する前に知っておきたい因果関係と相関関係

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データ分析する前に知っておきたい因果関係と相関関係

はじめに

エブリーでデータアナリストをしている近藤と申します。 元々サーバーエンジニアでGoを書いていましたが、昨年7月からデータアナリストとして働いています。 普段はデータガバナンスの整備やredashによるデータ提供、データによる営業支援といった業務を行っています。

因果関係と相関関係の理解

データ分析を行う意義は、データの規則性を見つけて活用し、ビジネスをドライブさせることです。 しかし、見つけた規則性の解釈を誤るとビジネスに役立たず、貴重なリソースを浪費してしまいます。 規則性を見つけて終わりではなく、見つけた規則性が一体何を意味するのかを常に考えなければいけません。

特に相関関係と因果関係の混同はよく起こりうる問題です。相関関係だけをみて因果関係があると判断すると、おそらく効果のある施策を打つことはできないでしょう。 因果関係と相関関係の違いの理解はデータ分析をする上では必須と言えます。

そこで、因果関係と相関関係を理解してデータ分析をするための考え方をまとめたスライドを作成しました。 テックブログなのにSEO最悪なのでCTOに怒られそうですが、自分が伝えたいことはスライドのほうが伝わるのでスライドにしました。 是非ご覧いただければ幸いです。

まとめ

相関関係を見つけると因果関係がどのように存在しているのかを考え、仮説を立ててリサーチデザインを決め、データを収集・分析し、因果関係に迫っていく必要があります。 相関関係と因果関係を混同しないように気をつけましょう!!

運用していたAPI Serverが気づいたら異常終了するようになっていた話

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運用していたAPI Serverが気づいたら異常終了するようになっていた話

はじめに

今回は運用していたAPI Serverが気づいたら異常終了するようになっており、原因の特定と対策をした話をしようと思います。

発生していた障害

今回発生していた障害の詳細は以下になります。

  • ECS上で運用していたAPI Serverが異常終了するようになっていた
    • タスクの終了ステータスを監視するスクリプトを動かし始めたタイミングで発覚
    • ExitCode 2 でタスクが終了している
  • 異常終了は発生する日としない日がある
    • 同一の日に複数回発生はしていない
  • 異常終了が発生するのは12時から13時の間
  • タスク数は2で起動していたが、2つのタスクが同日に異常終了することはなかった
  • 異常終了する直前のメトリクスに通常時と異なる箇所は見られなかった

外形監視はしていたのですが、タスクの終了ステータスは監視していなかったため発見が遅れました。 また、発見が遅れたためどの変更が原因でいつから異常終了するようになっていたのかがわからない状態でした。

原因調査

調査1 : コードの更新

まず最初にExitCode 2でタスクが終了していることからpanicが発生しているのではないかと考えました。
今回異常終了していたAPI Serverは、同一のdocker imageを使用し、環境変数によって内部向け・外部向けを変更する構成になっており、外部向けの方でのみ異常終了は発生していました。
外部向けのAPI Serverに関しては、自動デプロイの対象になっておらず直近でデプロイも行われていなかったため、内部向けAPI Serverと差分が発生している状態でした。
差分が発生し、外部向けAPI Serverでのみ異常終了が発生していたため、差分に原因があるのではないかと考え差分をなくすためにデプロイを実施しました。
しかし、差分がなくなった状態でも状況に変化はなく、外部向けAPI Serverでのみ異常終了は発生し続けました。

調査2 : アクセスに起因したものではないか

調査1にて内部向けとの差分をなくしても状況に変化がなかったで、次は特定のリクエストによって発生しているのではないかと考えました。
API Serverではアクセスログを出力していたのですが、このアクセスログはレスポンスを返すタイミングで出力していたため、処理の途中で異常終了してしまった場合にはログは出力されていません。
そこで、調査のために処理の途中でも適宜ログを出力するようにして、処理途中で異常終了した場合にもどんなリクエストが来ていたかわかるよう変更を加えました。
しかし、異常終了が発生した後にログを確認したところ、該当の時間に処理を行っているログは出力されていませんでした。

調査3 : システム系を疑う

調査2によって、リクエストによって発生しているわけではないことがわかったので、API Serverのコード以外の要素で異常終了する理由がないかと考え調査を続けていました。 異常終了が発生するのは12時から13時の間だけのため、この時間帯に何かしらの処理が動いて、それが原因なのではないかと考えました。
API Serverのコンテナが動いているインスタンスにて該当の時間帯に動いている処理を確認したところ、ログローテートの処理がありました。
ログローテートの設定は下記のようになっていました。

{
    missingok
    notifempty
    compress
    delaycompress
    daily
    rotate 7
    postrotate
        docker container kill -s HUP `docker ps | grep <image-name> | awk '{print $1}'` 2> /dev/null || true
    endscript
    sharedscripts
}

ログローテート後に、ログの出力先ファイルを変更するために条件に合致するコンテナに対してSIGHUPシグナルを送っていました。 ここではシグナルを送る先としてgrep <image-name>で対象のコンテナをしぼっています。
調査1にて記載していますが、異常終了していたAPI Serverは同一のdocker imageを使用し、環境変数で内部向け・外部向けを変更するようになっています。
そのため、内部向けと外部向けのAPI Serverが同一のインスタンスに存在した場合、実際にはログローテートをしていない方のAPI Serverにもシグナルが送られるようになっていました。
どちらのAPI ServerでもSIGHUPをハンドリングするようになっている場合には問題はないのですが、外向けのAPI ServerではSIGHUPのハンドリングをするようになっていませんでした。
確認のため、検証環境にて外向けのAPI Serverに対してSIGHUPシグナルを送ってみると異常終了することが確認できました。

行った対応

原因の特定ができたので、対応策を考えます。
今回候補に上がった対応策は下記の3つになります。 - SIGHUPを送る先の抽出条件を修正する - 内向けと外向けのimage名を分離する - シグナルをハンドリングする

本来でしたら3つすべて実施したほうがいいのですが、 まずは応急処置として実装工数が一番少なく済むと判断した、シグナルハンドリングの修正を行うことにしました。

DELISH KITCHENではGoでAPI Serverの実装を行っており、Goではシグナルハンドリングos/signageパッケージに定義されているIgnoreメソッドを使えばできます。
https://golang.org/pkg/os/signal/#Ignore
実際に追加した処理は下記になります。

signal.Ignore(syscall.SIGHUP)

上記の対応を実施したあと、検証環境にて外向けのAPI ServerにSIGHUPを送ったところ問題なく稼働し続けていることが確認できました。

振り返り

今回はExitCode 2でAPI Serverが終了していたという情報と障害が発生していた時間から原因を想像して、対処をすることができました。
対応後にチーム内にて簡単に振り返りを実施してみたところ、トレースを実施することでより詳しい情報が取得でき、原因の特定がスムーズにできたのではないかという意見がありました。
トレースする対象としてはシステムコール・パケット・ブロックIO等が考えられます。
今回の障害の場合、システムコールをトレースしてみればSIGHUPが送られて来ていたことがわかったはずです。

実際にシステムコールをトレースしてみた例を下記に示します。
今回障害が発生していたAPI ServerはGoで記述したものをdocker上で動かしており、dockerを動かしているホスト及びAPI Serverが起動しているコンテナ内にstraceがインストールされていないため、PID名前空間を共有したコンテナを起動し、起動したコンテナ内でstraceを実行しています。

echo -e 'FROM alpine\nRUN apk add --no-cache strace' \
| docker build -t debug -f - . \
&& docker run -it --rm --pid container:<containe_id> --cap-add sys_ptrace debug strace -fp 1

docekrで動かしているコンテナに対して、別のコンテナからstraceを動かす方法については、下記のサイトを参考にさせていただきました。

straceをした状態でSIGHUPを受信するした時のログは下記になります。

[pid     6] nanosleep({tv_sec=0, tv_nsec=20000},  <unfinished ...>
[pid    13] <... futex resumed>)        = 0
[pid    13] futex(0xc000211d48, FUTEX_WAIT_PRIVATE, 0, NULL <unfinished ...>
[pid     6] <... nanosleep resumed>NULL) = 0
[pid     6] futex(0x17c4e78, FUTEX_WAIT_PRIVATE, 0, {tv_sec=59, tv_nsec=137259289} <unfinished ...>
[pid    10] <... epoll_pwait resumed>[], 128, 1, NULL, 0) = 0
[pid    10] epoll_pwait(3, [], 128, 0, NULL, 2) = 0
[pid    10] epoll_pwait(3,  <unfinished ...>
[pid     1] <... futex resumed>)        = ? ERESTARTSYS (To be restarted if SA_RESTART is set)
[pid     1] --- SIGHUP {si_signo=SIGHUP, si_code=SI_USER, si_pid=0, si_uid=0} ---
[pid     1] futex(0x17efbc0, FUTEX_WAIT_PRIVATE, 0, NULL <unfinished ...>
[pid    10] <... epoll_pwait resumed>[{EPOLLIN, {u32=4118929128, u64=140509679050472}}], 128, 59136, NULL, 0) = 1
[pid    10] futex(0x17c4e78, FUTEX_WAKE_PRIVATE, 1) = 1
[pid     6] <... futex resumed>)        = 0

障害が起こっているAPI Serverに対してstraceを実行し上記のようなログがでていることを確認できていれば、どこからかSIGHUPが送られてきていることがわかり、調査をスムーズに進めることができたと思いました。
しかし、トレースを実施すると何かしらオーバヘッド等が発生するため、なるべくなら検証環境などで不具合を再現し、その環境でトレースを行うことが望ましいです。 ですが、今回のように再現が困難な場合にはオーバーヘッドが発生することを考慮にいれ、本番環境でトレースを行うことも1つの方法としてあったと思います。

さいごに

今回は実際に起こった障害の事例を元にどういったことを考え調べていったのかについて話しました。 障害の調査をする時には、想像力を働かせて色々な原因を考えて一つ一つ確認していくことになると思います。 その時今回のように気づくのが遅れてしまうと、考えうる原因が増え対応の時間が長引くだけでなく難易度もあがってしまいます。 こうならないためにも、適切な監視を設定することが大事だと改めて感じることができました。
今回のような失敗談を記事にすることで、みなさんの障害調査の時の手助けや監視設定を見直すきっかけになれば幸いです。

Jetpack Compose のbeta版を触ってみた

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はじめに

日本時間の2021年2月25日に Jetpack Compose のbeta版がリリースされました。APIも固まってきたようですので触ってみた範囲のうち、導入的なところをコードで示しつつ、感想を述べていきます。

使用環境

使用した環境は以下の通りです。他にもandroidx.activityなどにcomposeがありますが、いずれも2021年3月15日時点で最新のバージョンを使用しました。
バージョンはJetpackのLibraries(*1)から調べることができます。

  • Android Studio Arctic Fox | 2020.3.1 Canary 9
  • androidx.compose 1.0.0-beta02

最初につくるもの

トップレベルの関数に @Composable を指定することで、その関数内にてComposeを使用したレイアウトを組めます。合わせて @Preview を指定すればAndroid Studio上でプレビューもできます。
このプレビューは同時に複数表示可能なので、プレビュー用の関数を複数作成すればダークテーマ対応有り/無しの表示を同時に確認できます。

@Composable
fun MyScreen() {
    // ここでComposeを使用して表示を組む
}

@Preview
@Composable
fun PreviewMyScreen() {
    // MyScreenで組んだ表示がAndroid Studio上にプレビューされる
    MyScreen()
}

レイアウトたち

Box、Column、Rowがそれぞれ従来のFrameLayoutやinearLayoutに相当しています。

Box {
    // 重なる
    Text("hoge")
    Text("piyo")
}

Column {
    // 縦に並ぶ
    Text("hoge")
    Text("piyo")
}

Row {
    // 横に並ぶ
    Text("hoge")
    Text("piyo")
}

他に、gradleファイルに指定を追加することでCompose版のConstraintLayoutも使えますが、公式Document中のConstraintLayoutの補足(*2)を読むと無理して使わなくても良さそうです。

// テキスト2つを縦に並べる
ConstraintLayout {
    val (text1, text2) = createRefs()

    Text(
        "hoge",
        modifier = Modifier.constrainAs(text1) {
            linkTo(
                parent.start, parent.top, parent.end, text2.top,
                0.dp, 0.dp, 0.dp, 8.dp
            )
        }
    )
    Text(
        "piyo",
        modifier = Modifier.constrainAs(text2) {
            linkTo(
                parent.start, text1.bottom, parent.end, parent.bottom,
                0.dp, 0.dp, 0.dp, 0.dp
            )
        }
    )
}

表示のパーツたち

Text、Button、Image、Cardなど多くの表示が揃っています。Spacerなるものもあり、わかりやすくmarginを仕込めます。
ただ、RecyclerView(ListView)相当がLazyColumn(or LazyRow)という名称であったりと、一部は従来の名前から大きく変わっている点に注意が必要です。

val items = (0 until 100).map { "item $it" }

LazyColumn(
    // 項目の間隔を空ける
    verticalArrangement = Arrangement.spacedBy(8.dp)
) {
    item {
        // リストの一番上に横スクロールのリストを入れる
        LazyRow(
            horizontalArrangement = Arrangement.spacedBy(8.dp)
        ) {
            items(items) { Text(it) }
        }
    }

    items(items) {
        // 縦スクロールのリストの項目としてテキストとボタンを横に並べる
        Row {
            Text(it)
            Spacer(modifier = Modifier.width(8.dp))
            Button(onClick = {
                // ボタンクリック時の処理
            }) {
                Text("button")
            }
        }
    }
}

ものが多すぎるので使いたいものを公式Reference(*3)から頑張って探す必要があります。androidx.composeパッケージ関連を漁れば色々と見つかります。

表示の設定を変更する

これまでレイアウトのxmlで指定していたlayout_widthやpaddingなどは Modifier というobjectを通して設定します。 Modifierにサイズやpaddingを設定する拡張関数があり、ものによってはColumnなどのscope限定で使える拡張関数が存在していることもあります。

Box(
    // 縦横とも画面一杯に広げてpaddingを設ける
    modifier = Modifier
        .fillMaxSize()
        .padding(16.dp)
) {
    Text(
        "hoge",
        // 背景を赤色かつ角に丸みを与え、中央に配置する
        modifier = Modifier
            .background(Color.Red, shape = RoundedCornerShape(8.dp))
            .align(Alignment.Center)
    )
}

表示の操作として行えることはModifierの関数だけなのでわかりやすいです。

ガワを作る

Scaffold() でMaterial Designに則った画面を簡単に構築できます。各種AppBarやFABを設定できる口があるので、従って作るだけでそれらしい画面になります。

Scaffold(
    // 他にもbottomBarやfloatingActionButtonなどを設定できる口がある
    topBar = {
        TopAppBar(
            title = { Text("title") },
            actions = {
                IconButton(onClick = {
                    // メニュークリック時の処理
                }) {
                    Icon(
                        imageVector = Icons.Default.ImageSearch,
                        contentDescription = "search"
                    )
                }
            }
        )
    },
    content = {
        // ここで画面の表示を作る
        MyContentScreen()
     }
)

その他

viewModelを viewModel() で取得できたり、Navigationによる表示切り替えも行えるため、やりたいことは一通り行えそうであることが感じとれます。
また、これまでに作成した既存のViewは AndroidView なるものを使用することでComposeの世界に引き込んだりもできます。

他にCompose独自に覚えることとして、remember系の関数で値を保持したり、表示更新の契機としてStateを操作したりと従来にはなかった考え方を覚えて行く必要があります。
このあたりはReactのComponentで表示を作るときに近いものを感じました。

ハマったところ

Android StudioがCanaryであったり、Composeがbetaであるためか、いくつかハマったところがありました。

  • viewModel()を使うとプレビューが表示されない
    • viewModel()を使わずにViewModelの実体を渡すか、あるいはViewModelから取得した値だけをComposableな関数へ渡す
    • プレビューを使わず、エミュレータや実機で確認するだけなら問題なし
  • 自動importがよきに行われないものがあるため毎回手動でimportを書くことになるものがあった
    • viewModel()を使うための import androidx.lifecycle.viewmodel.compose.viewModel
    • var value by remember { mutableStateOf("") } などと by を使ってStateのvalueへのシンタックスシュガーを利用する場合の import androidx.compose.runtime.getValue / setValue
      • stackoverflowの回答(*4)に助けられました
      • (3/29追記) by xxx.observeAsState を使用した場合のgetValue(※7)や by remember を使用した場合のsetValueのimportなど、一部に対応されたようです
  • BottomSheetやSnackbarの使い方のベストプラクティスがわからない
    • Textなどと同じように作ることでとりあえず表示は行えるが、BottomSheetScaffoldやSnackbarHostなるものがあるため、よりよい使い方があると思われる

さいごに

今回の記事は公式Document(*5)を一通り読んでその中のおおよそを触ったものの一部です。Composeの情報は多いため覚えきることも紹介しきることも難しいですが、触ってみた範囲ではxmlで組むより簡単に表示を構築できる印象がありました。
対応されたAndroid Strudioとともにstable版になる日が楽しみです。

Jetpack Composeを使ったチャレンジとして Android Dev Challenge (*6) なるものも開催されているので、挑んでみるのも良いと思います。

参照

*1
JetpackのLibraries
https://developer.android.com/jetpack/androidx/explorer

*2
公式Document中のConstraintLayoutの補足
https://developer.android.com/jetpack/compose/layout#contraintlayout のNote部分

*3
公式Reference
https://developer.android.com/reference/kotlin/androidx/compose/material/package-summary

*4
stackoverflowの回答
https://stackoverflow.com/questions/64951605/var-value-by-remember-mutablestateofdefault-produce-error-why

*5
公式Document
https://developer.android.com/jetpack/compose

*6
Android Dev Challenge
こちらは最終チャレンジのWeek 4
https://android-developers.googleblog.com/2021/03/android-dev-challenge-4.html

※7
Android Studio Arctic Fox Canary 12のFixes https://androidstudio.googleblog.com/2021/03/android-studio-arctic-fox-canary-12.html

誰でもわかるStoreKitTesting

誰でもわかるStoreKitTesting

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はじめに

はじめまして。エブリーでiOSエンジニアをしている佐藤です。

DELISH KITCHENで、主にプレミアムサービスや課金周りを担当しています。

今回は、WWDC2020で発表されたStoreKitTestingについて紹介したいと思います。

概要

概要としては以下が挙げられるかと思います。

  • AppleStoreサーバに接続せずにローカル課金テストができる
  • ローカルでテスト商品を作れる
  • 購入トランザクションの管理ができる
  • 割引系(お試しオファー、プロモーションオファーなど)のデバッグが可能
  • プロモーションオファーはローカルの秘密鍵を作成可能
  • レシートはローカルで署名されている
  • 課金のユニットテストが可能

ローカルで実行できる課金環境がとても充実してきていますね。

次にStoreKitTestingの導入の流れを簡単に説明していきたいと思います。

Configurationファイルを作成

まずはNew FileでStoreKit Configuration Fileを選択し、作成します。 f:id:kai_ios:20210304143646p:plain

次にサブスクリプショングループを作成します。 f:id:kai_ios:20210304143653p:plain

次に課金商品を作成していきます。 選べるのは以下の3つ。

  • 消耗型
  • 非消耗型
  • 自動更新サブスクリプション

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作成が終わるとこんな画面になります。 f:id:kai_ios:20210304143714p:plain

Product IDや期間などは任意で選択可能です。

オファーの作成

更にStoreKitTestingではAppleが用意している様々な購入オファーの選択も可能です。

そのひとつが、Introductory Offer(お試しオファー)です。

これは初回購入ユーザーに対してアプローチ可能なオファーになります。

選べるのは以下の3つ

  • Pay As You Go(都度払い)
  • Pay Up Front(前払い)
  • Free (無料)

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2つ目がPromotional Offer(プロモーションオファー)

これは再登録者や継続ユーザーへアプローチ可能なオファーです。 詳しい実装は割愛しますが、AppleStoreConnectで作成した秘密鍵をもとに署名を作成し、StoreKitでの購入時に必要なパラメータを含めると購入可能になります。

詳しい実装方法

StoreKit Testingではローカルで秘密鍵を作成可能で、それをもとに署名を行うことで購入テストが可能になります。

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残念ながらiOS14から使用可能になったもうひとつのオファーである、オファーコードはStoreKit Testingで使用することはまだできないようです。 参照

Configuration Fileを設定する

Product > Scheme > Edit Scheme > Runを開き、 以下画像のように作成したConfiguration Fileを設定します。

Schemeごとに設定可能なので、 任意のSchemeに作成したConfiguration Fileを設定することでStoreKit Testingでの購入が有効になります。

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様々なデバッグ

StoreKitTestingでは様々な購入デバッグが可能です。

以下のようなものが設定可能です。

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  • 既定購入ストアの設定(購入する国別ストアの選択)
  • 既定表示言語
  • タイムレート(購入有効期限の時間短縮率)
  • 購入割込のデバッグ有効化
  • トランザクションを失敗させる(エラー種別も選択可能)
  • 購入確認の表示
  • プロモーションオファーのローカル秘密鍵とKeyIDの生成
  • ローカル証明書の生成(StoreKitTestingでのレシート検証のため)

※選択できるエラー種別

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またトランザクションの管理も行うことができます。

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まとめ

StoreKitTestingの設定方法をかんたんにまとめてみましたがいかがだったでしょうか。

今まで開発中は実機でSandboxでの課金テストを行っていましたが、StoreKitTestingによって開発効率は上がったように感じます。 直近ではプロモーションオファー関連の開発デバッグを簡単に行うことが出来、導入のメリットを感じることができました。

課金テストの自動化など安全面でも導入の強みはあるのではないかと思いますので、 まだ未導入の方もしくはIn App Purchase実装の練習をしたい方などはぜひお試しを!