Webブラウザとは異なり、Androidの標準的なライブラリ(OkHttpなど)にはSSEの自動再接続や状態管理の機能が不足しており、通信障害時にエラーを検知できず画面のデータがフリーズしてしまうエラーケースが存在します。講演者はこの事象を "The Trap of Silence" (沈黙の罠) と呼んでいました。この問題を克服するためには、サーバーに依存するのではなく、クライアント側(Android側)で堅牢な自己回復機能を持つ独自の仕組みを設計する必要性が生じます。
さらに、DroidKaigi & iOSDC After Talks Night 2026を、ゆめみ、フェンリル、Yappli、WealthNavi、セーフィー、エブリーの6社合同で開催いたします!なお、今回はiOSDC Japan 2026のアフターパーティーも兼ねているので、AndroidエンジニアだけでなくiOSエンジニアの方も交えて、プラットフォームの垣根を越えた活発な技術交流や情報交換をお楽しみいただけます。両カンファレンスの熱気をそのままに、各社によるLTセッションや懇親会をご用意しております。
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最後の API がポイントです。リロードや別タブで会話を開いた直後、クライアントは会話 ID しか知らず、実行中の run があるかどうかも分かりません。そこで GET /conversations/{id} は、会話のメッセージに加えて「実行中の run の ID」を返します。クライアントはその ID で GET /runs/{id}/events を購読し、生成途中から表示を再開します。
DB スキーマ:残す履歴と実行中の状態を分ける
このアプリでは以前から、本体機能のデータを Aurora MySQL 8.0 + Prisma で管理しています。エージェントの履歴も同じ DB に、3 つのテーブルで持つことにしました。ずっと残す「履歴」と、実行中だけ使う「実行状態」でテーブルを分けています。
エージェントは毎回の呼び出しで会話の全履歴を受け取り、状態をゼロから組み立て直す作りにしています。この全履歴を誰が用意するかには 2 つの形があります。クライアントが手元の Message 配列を毎回送るか、サーバーが DB から組み立てるかです。私たちは後者にしました。クライアントが送るのは新しいメッセージ 1 件だけです。
前者を避けた理由は、バックグラウンド実行と相性が悪いからです。実行を放置して別のタブで完走させると、元のタブが持っている履歴は古いままになります。その古いタブから次の質問を履歴ごと送ると、完走したはずの回答がモデルへの入力から抜け落ち、会話のつじつまが合わなくなります。後述するロックは実行中しか効かないため、この事故は防げません。最新の会話を常に持っているのは DB だけです。
なお、AgentCore 側に会話の状態を持たせる案も 2 つ検討し、見送りました。
実行環境(microVM)のメモリに持つ: セッション ID は会話ごとに固定なので、同じ会話の呼び出しは同じ実行環境に届き、メモリに状態を残すこと自体はできます。ただしこの環境は無操作 15 分(デフォルト)などで終了し、メモリごと消えます。時間を空けて続く会話の置き場にはできません
Memory サービスに持つ: AgentCore には会話を保存する Memory というサービスもあります。ただし履歴はどのみち表示のために自前の DB へ保存するので、足すと同じ役割の保存先が 2 つになります
途中合流の購読者を live のイベント列に合流させず poll に回すのは、正しさを優先したためです。デルタの続きから流すには、「スナップショットに含めた分」と「これから流すデルタ」の境界を厳密に合わせる必要があります。境界がずれると、content += delta の積み上げで本文が二重に連結されます。会話全体のスナップショットを送り直す形なら、毎回が丸ごとの置き換えなので、この事故が原理的に起きません。その代わり、poll 配信の画面は live 配信のようなストリーミング表示にはならず、数秒おきに文章がまとまって進む表示になります。途中合流でもストリーミング表示にすることは、後続の課題にしています。
同時実行制御:実行中ロックを NULL 可のユニーク列で作る
「同一会話に実行中の run は 1 本だけ」を DB で強制します。PostgreSQL なら部分インデックス(partial index。CREATE UNIQUE INDEX ... WHERE status IN ('queued','running') のように、条件を満たす行だけへ一意制約をかけられます)で書けますが、MySQL 8.0 には相当する構文が用意されていません。
「サーバー起動時に、残っている running を全部 failed にする」というより単純な方法は採れませんでした。デプロイ中は新旧のサーバーがしばらく同時に動いており、旧サーバーがまだ実行している最中の run を、新サーバーの起動処理が誤って failed にしてしまうためです。run に owner_instance_id(どのサーバーがその実行を担当しているか)を持たせているのも同じ理由です。掃除処理は、自分のサーバーがいま実行している run を誤って回収しないよう、この ID とメモリ上の実行一覧を突き合わせて判定します。
この設計では、タブを閉じる・画面を遷移するのは「切断」であり、実行は継続します。明示的に止めたいときは POST /runs/{id}/cancel を呼びます。実行ワーカーにキャンセル要求の印を立てて上流への購読を切り離し、実行を「キャンセル」として記録します。記録後に遅れて届いた生成物は、前述の完了時トランザクションの「別の経路が先に終わらせていたら保存しない」分岐で破棄されます。
サブスクリプションの解約は、これまで開発者にとってブラックボックスでした。ユーザーが App Store の管理画面で「サブスクリプションをキャンセルする」を押すとき、アプリ側にできることは何もありません。引き止めのメッセージも、オファーの提示も、そもそも解約されようとしていることを知ることさえ、その瞬間にはできませんでした。
ここまでが主に「解約確認画面に何が出るか」の話です。次は、その表示をアプリ側がどう用意するかです。
方法は2つあって、手軽さが大きく違います。App Store Connect で設定するだけの方法と、自前のサーバーを立てて顧客ごとにリアルタイムで出し分ける方法です。順に見ていきます。
方法1: App Store Connect 側での設定
App Store Connect 上でメッセージ・画像・オファーを設定し、対象のサブスクリプションにマッピングするだけです。自前のサーバー実装は不要で、Apple 側が表示を担います。
流れはこうです。
ローカライズ済みのメッセージ文言を作る
任意で Asset Library の画像、Retention Offer を添える
1つ以上のサブスクリプションにマップする
Sandbox 環境でテストして公開
方法2: リアルタイム API 型(ユーザーごとの出し分け)
方法1の弱点は、全員に同じものしか出せないことです。
新しく発表された Retention Messaging API を使うと、「誰に・何を出すか」を自社のデータで決められるようになります。
誤解しやすい点を先に書いておくと、解約の理由そのものが Apple から届くわけではありません。リクエストに入っているのは「誰の契約か(originalTransactionId)」までです。ただ、この ID で自社のユーザーデータを引けば、手持ちの情報が使えます。例えば、購読してからどれぐらいか、最後にアプリを開いたのはいつか、月額プランか年額プランか、過去にオファーで引き止めたことがあるかなどがあるでしょう。
理由そのものは分からなくても、こうしたデータから仮説は立てられます。
出し分けのロジックが自前のサーバーにあることで A/B テストでの検証も可能になるはずなので、その仮説を検証することもできそうです。
次に、仕組みを見ていきます。
Retention Messaging API を使うと、解約操作が起きたまさにその瞬間に、App Store から自前のサーバーへ問い合わせが来ます。
プロモーショナルオファーは、開発者が特定のユーザーだけに提供できる限定オファーです。
対象ユーザー以外には利用されないように、開発者のサーバーが秘密鍵を使って「このユーザーに、このオファーを適用してよい」という署名を発行します。アプリはこの署名を使って、オファーが正しく発行されたものかを確認します。
promotionalOfferSignatureV2 は、このデジタルな許可証を標準的な形式である JWS(JSON Web Signature) で表現する新しい仕様です。
ところで、ここまでの応答例が messageIdentifier という ID しか返していないことに気づいたでしょうか。メッセージの文言や画像の実体は、あらかじめ Apple に登録しておく設計になっています。解約フローの真っ最中に文言ごと送るのではなく、実体は事前登録しておいて、その場では「どれを出すか」を ID で選ぶだけです。
この事前登録を担うのが、管理用のエンドポイント群です。メッセージや画像の登録のほか、リアルタイム問い合わせの受け口 URL の設定、性能テストの実行もここで行います。
POST /messages // メッセージ登録
GET /messages // 登録済み一覧
DELETE /messages/{messageId} // 削除
POST /images // 画像登録
GET /images
DELETE /images/{imageId}
POST /defaultMessages // デフォルトメッセージ設定
GET /defaultMessages/{productId}/{locale}
DELETE /defaultMessages/{productId}/{locale}
POST /realtimeUrl // 受け口URLの設定
GET /realtimeUrl
DELETE /realtimeUrl
POST /performanceTests // 性能テスト
GET /performanceTests/{testId}
フォールバックは段階的
リアルタイム応答が使えない・不正な場合は App Store Connect で設定されたものに、それも無ければ API で設定したデフォルトメッセージにフォールバックされます。
また、Sandbox には自社サーバーの応答性能を測るためのテスト用エンドポイントが用意されています。解約フローの中で同期的に呼ばれる API なので、応答が遅ければ体験を壊します。本番前にここで確認しておく、という建て付けだと理解しています。
まとめ
Retention Messaging は、解約確認画面という最後の接点に初めて介入できる機能
用意する方法は2つ。サーバー不要の App Store Connect 設定型と、ユーザーごとに出し分けるリアルタイム API。フォールバックも整理されている
返せるのはメッセージ、プラン切替提案、プロモオファーの3種
メッセージや画像の実体は事前登録しておき、リアルタイム応答では ID で選ぶだけ。Sandbox には応答性能のテスト用エンドポイントも用意されている